秘密基地

夜、12時を過ぎた頃、妻が帰ってきた。ちょっと文句を言ってやろうと、玄関に行くと「懐中電灯ない!」と、切迫した声で言う。「懐中電灯・・」と探して、見つけると「K君が帰ってこないらしいの。家出したらしい・・」
それと懐中電灯とどう繋がるのかわからない。「たぶん秘密基地よ・・」
と、妻は呟いた。付いていくと、家のすぐ側の、ビルとビルの間の1メートルほどの空間に、ダンボールと芝居で使った真っ赤な傘を数十本、上下に並べた・・なかなか見事なオブジェが出現した。そのダンボールを懐中電灯で照らすと人の頭らしいもの。ちょっとぎょっとする。思わず大声を上げると、頭はごそごそ動いた「出て来い!」と声を強めた。もぞもぞと這い出すと、ビルの奥へと行ってしまう「どこ行くんだ!こら!」と、声を荒げた。「大丈夫。むこうに出口があるから」妻は冷静だ。裏に行って待っていると、思いがけないところからK君は出てきた。家に連れて行き、夕飯の余っていた焼肉を温めて食べさせる。「お母さんと・・喧嘩しちゃって・・」肉食いながらK君は悪びれた様子がない。携帯で母親に連絡「確保・・」などといっている。刑事ドラマじゃないんだから・・K君は結局、うちに泊まることとなった。それにしても、私はその秘密基地など知らなかったが、妻は知っていたわけだ、ということは秘密でもなんでもないような・・。
さて、その、なかなかよく出来た秘密基地は結局ビルの持ち主から苦情が出て撤去ということになった。「お前な、あんなところに作ったら、困るわけだから・・誤って来い」「なんで?」「迷惑かけたわけだし・・」「別に迷惑じゃないジャン」「だから・・火事になったりとか、まずいんだよ、色々」
「じゃあ、どこに作ればいいの」「公園とか・・」「すぐ見つかって壊されるよ」「そりゃあ、そうだ・・」  息子との会話だ。怒ろうと思ったが、立派な秘密基地を褒めたいような気にもなってくる。秋の夜の一幕。眠っていたうちの息子二人は翌朝「なんでK君寝てるの?」となんだか嬉しげに聞いてくる。K君は朝飯食べて、さっそうと帰っていった。
秘密基地。そういえば作ったような気がする。でも、きっと誰かは知っていただろう・・でも、子供にとっては、秘密の・・基地なのだ。
K君が家出をしていなかったら、もう少し、秘密基地はあったのだろうか?ちょっと、見せたかったような気がしないでもない。
翌日だったか、友人二人が遊びに来たので、まだあった、その秘密基地を見に行った「やるなあ・・・」友人はにやりとして呟いた。
今度はいったい、どこに、どんなものをつくるのか、ちょっと楽しみにもなる・・でも又、大人の良識ってやつに、壊されるんだろうけどね・・まあ、そうやって、世間様のことを知っていくわけですが・・。
で、大人になっても秘密基地なんていってる輩が、芝居なんぞにのめりこんでいるわけで、神社におおっぴらにテントなんか張っちゃうわけですね。
さて、私も、今度はどこに秘密基地を・・などと、たくらんでいるわけなのでした。

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