嘘 2

嘘。と書いて、急に思い出したことがあった。あれは小学校の4年生か5年生頃のことだ。T君という男の子がいた。体が小さくて、いつも一番前だった。Oさんという、やっぱり小さな女の子といつも手をつないでいたのを思い出す。そのT君が、ある日、自分の家の押入れの中の話を始めたのだった。押入れから、洞穴があって、それはどこか遠いところに繋がっていて、水があって、宝もあって、それを守っているネズミがいて・・というような話であった。誰もその話を信じないが,T君は本当だと言う。そのうち、今でいう、いじめのようなことになったのだと思う。誰かが、じゃあ、お前の家に行くから見せてみろということになった。今日は駄目だが、いつか見せる、ということになったのだと思う。その日はとうとうやって来て、T君の家に行くことになった。家の前に来て、待っていると・・ネズミの機嫌が悪いというようなことを言った。結局私たちはあきらめたが、結局嘘なんだという結論になったのだと思う。
今考えると、T君はなぜあんなことを言ったのだろうと思う。きっと「不思議の国のアリス」か何かを読んで、その話と、自分の家の押入れがごっちゃになったのだろうと思う・・体が小さくて、いじめられたりしがちなT君の夢想を・・どうして、やっきになって否定したのだろう。T君の壮大な嘘は、もしかしたら本当かもしれないと思わせるものがあった。嘘に迫力があったというか。もしやと思わせるものがあったのだ。今でも時々思い出す話なのだ。池尻大橋の今は面影もないT君の家の近くを通ると、必ず思い出す。彼はどうしているのだろうと、思う。大会社の社長になったと、本人が言っていたという噂を耳にしたのは、いつだったか・・今でも壮大な・・などと思ったりするのだ。
考えてみれば、私たちの仕事も、壮大な嘘を作り出しているようなもので、その嘘を本当ではないかと思わせるところがミソなのだ。すぐにばれちゃうような、ちゃちな嘘で、迫力も何もないような嘘を並べて、恥をかいているような芝居ではやっぱりだめなのです。やっぱり壮大な、もしやと思わせなければ、などとね。
さて、ここのところの忙しさが、ちょっと一段落して。べっかんこ鬼に本腰。壮大な鬼の物語を楽しんでもらえたらと、稽古です。

Follow me!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次